編集注:大規模言語モデルへの関心が画面上の世界から倉庫や街頭へと広がりつつある中、「フィジカルAI(Physical AI)」はECプラットフォーム大手が実際の現場展開能力を競い合う新たな戦場となっている。京東が提示した定量的な答えは、5年以内に300万台のロボットを調達するというものだ。
北京で開催された京東エクスプローラーカンファレンス(JDDiscovery 2026)において、京東は「フィジカルAI加速計画(Physical AI Acceleration Plan)」を正式に対外発表した。この計画に基づき、京東はAIとロボティクス技術を全国規模の物流ネットワークに大規模に組み込み、倉庫保管・仕分け・幹線輸送・ラストワンマイル配送の各工程において自動化・知能化を全面的に推進する。
さらに注目を集めているのは、京東が同時に改めて示した5年間の調達目標だ。ロボット300万台・自動運転車両100万台・配送ドローン10万機という数字は、単なる調達リストではなく、ロボット・無人車・ドローンが連携する立体的なフルフィルメントネットワークという、京東が描く将来の物流像を丸ごと示すものである。
一、京東がなぜ「フィジカルAI」を強調するのか
過去2年間、生成AIをめぐる競争はモデルのパラメータ数・推論能力・対話体験に集中しており、典型的な「デジタル世界」の競争だった。一方、「フィジカルAI」とは、AIの知覚・意思決定・実行能力を現実の物理世界における機械設備に組み込み、アルゴリズムが物理的な動作を直接駆動できるようにするもの、すなわち業界でよく言われる「エンボディドAI(Embodied AI)」を指す。
物流企業にとって、これこそが最も価値ある部分だ。倉庫内のピッキングロボット・仕分けラインの機械アーム・構内の無人配送車・遠隔地への配送ドローンは、効率が向上すれば、それが直接フルフィルメントコストの低下と配送スピードの改善につながる。京東が「フィジカルAI」をテーマとして掲げたことは、同社のAI戦略の重点がオンラインサービスからオフラインの生産性へとシフトしていることを意味する。
二、「ウルフ(Wolf)」ロボット:倉庫から産業現場へ
加速計画と同時に、京東ロジスティクスは産業向け「ウルフ(Wolf)」ロボットシリーズを発表した。主にEC倉庫向けの自動化設備として展開してきた従来製品と異なり、このシリーズは製造・流通などより幅広い産業シーンを対象とした工業グレード製品として位置づけられ、搬送・仕分け・移送などの作業を担う。
この転換は重要なシグナルを持つ。京東ロジスティクスは「アジアNo.1」スマート産業パーク(亚洲一号)で長年積み上げてきた自動化の知見から、高並列・多SKU・ピーク波動への対応力をエンジニアリングとして確立してきた。こうした能力を標準化されたロボット製品として外部に展開することで、京東の役割は「自社技術を活用した物流サービス事業者」から「物流自動化技術のサプライヤー」へと広がり、潜在市場も自社ネットワークから産業全体へと拡大する。
三、300万台のロボットが意味するもの
300万台というロボットの調達数は非常に大きな数字だ。参考として、世界で既に稼働している産業用ロボットの総台数はまだ数百万台規模にある。京東が5年間で自社物流体系向けに相当数のロボット設備を調達する計画は、同社を世界最大級のロボット調達者の一つにする規模感だ。
ただし、この目標は慎重に読み解く必要がある。その相当部分は、従来型の重厚な産業用機械アームではなく、コストが比較的低く柔軟に展開できる倉庫ロボットや小型自動化設備が占めるとみられる。また100万台の「自動運転車両」は、公道を走る自動運転トラックだけでなく、構内の自動誘導搬送設備(AGV)やラストワンマイル無人配送車が大部分を占める可能性が高い。
四、無人配送の現実とボトルネック
配送ドローン10万機という目標も野心的だ。ドローン配送は山岳地帯・離島・農村など陸上交通が不便な地域で明確な優位性を持ち、京東は数年前からすでに関連テストを始めている。しかし、5年以内に10万機規模の商業運用を実現するには、空域承認・航路設計・離着陸インフラ・運用コスト・安全冗長性など多重の制約が立ちはだかる。
地上の無人配送も同様だ。無人配送車は構内・キャンパス・住宅地などの半閉鎖空間ではすでに日常的に運行しているが、公道に出た途端に法規制・道路通行権・社会的受容が現実の障壁となる。京東の表現が「商業運用」ではなく「調達」にとどまっているのはそのためでもあり、設備の調達と大規模な商業化の間にはまだ相応の距離がある。
五、業界視点:フィジカルAIの競争はまだ始まったばかり
フィジカルAIに賭けているのは京東だけではない。アリババグループは倉庫自動化と無人配送に継続投資し、美団(Meituan)は無人ドローンと自動配送車をより多くの都市へ展開し、Amazonは倉庫ロボットと自動運転プロジェクトで版図を広げている。海外でも倉庫ロボットやドローン物流の企業が商業化を加速させている。
共通する判断は、AIの価値は最終的に物理世界で実現されなければならないというものだ。実際の現場でロボットをうまく活用し、コスト優位を生み出せた企業が、次のサプライチェーン競争で主導権を握る。京東が「フィジカルAI加速計画」を中核戦略として明示し、具体的な数量目標を示したこと自体が一つの姿勢表明だ。AIを発表会上の概念から、調達リスト上の具体的な項目へと変換したのである。
もちろん、壮大な目標は時間をかけて検証される。今後数年間、外部が注目すべきは300万台という数字がいつ達成されるかではなく、ロボット1万台ごとにフルフィルメントコストがどれだけ下がり、配送スピードがどれだけ改善し、1件当たりのエネルギー消費と人的投入がどう変化するかだろう。こうした細かい数字こそが、フィジカルAIの真の成績表となる。
本稿はAI Newsを参考に編集・翻訳したものです。
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