編集注:風力発電と太陽光発電が最も安価な電源となった今、真のボトルネックは「どれだけ発電するか」から「どれだけ長く蓄電できるか」へと移行している。米マサチューセッツ州のあるスタートアップ企業が、最もありふれた金属――鉄――を使って、数十年にわたり電力系統を悩ませてきたこの難題を解こうとしている。
断続性:クリーンエネルギーの「アキレス腱」
多くの地域において、新規の太陽光・風力発電所の発電コストはすでに化石燃料を下回っている。しかしその出力は、季節・時間帯・天候に大きく左右される。太陽光は日中しか機能せず、風力は発電量が変動する。数日間にわたって曇天や無風が続けば、電力系統は別の電源で補わなければならず、そうしなければ供給の信頼性が直接脅かされる。
現在の主な解決策はリチウムイオン電池だが、その経済性は通常2〜4時間のピークシフト需要に対応する範囲にとどまる。数日から1週間にわたる「エネルギー枯渇期」を乗り越えるには、必要な容量とコストが急激に膨らむ。これこそが「長時間蓄電(LDES)」が近年繰り返し注目される根本的な理由である。
鉄を「錆びさせる」ことで電力を蓄える
Form Energyは2017年に設立された。MITの研究蓄積と起業支援エコシステムを母体とし、創業チームにはテスラで蓄電事業を担当した幹部も名を連ねる。同社のコア技術は「鉄空気電池」だ。放電時には鉄が空気中の酸素と反応して酸化鉄――いわゆる「錆」――を生成し、充電時には電流によって酸化鉄が金属鉄へと還元される。このプロセスはリチウム・コバルト・ニッケルといった希少または供給網上リスクのある材料を必要とせず、原料は安価かつ埋蔵量が極めて豊富な鉄である。
鉄空気電池の売りはエネルギー密度ではなく「持続時間」にある。目標は約100時間の連続放電であり、市場で主流の4時間リチウムシステムをはるかに上回る。
つまり、鉄空気電池はリチウムイオン電池と競合するのではなく、補完関係にある。リチウム電池が日内の短期ピークシフトと周波数調整を担い、鉄電池が数日・数週間単位のエネルギー移転を担う。
研究室から工場へ
この電気化学システムを実際に電力系統に導入するうえで、鍵を握るのは製造だ。公開情報によると、Form Energyはウェストバージニア州ウェルトンの旧鉄鋼工場跡地を改修して生産拠点とし、電池モジュールの大規模・低コスト量産を目指して生産能力を拡大し続けている。クリーンルームでの精密組み立てが必要なリチウム電池の製造ラインと比べ、鉄空気電池のモジュール式「電池スタック」構造は従来の工業施設での組み立てに適しており、廃止された火力発電所の跡地での現地展開にも向いている。
商業面では、ミネソタ州やジョージア州など複数の公益事業会社とプロジェクト契約を締結しており、規模はメガワット級の初期パイロットから数十メガワット級の商業展開へと拡大している。これらの契約の意義は収益にとどまらない。鉄電池が実際の電力系統環境において10年以上安定稼働できるかどうかを実証することにある。
長時間蓄電市場のレース
Form Energyは独走しているわけではない。液体フロー電池・圧縮空気・重力蓄電・鉄クロム電池・グリーン水素など、さまざまな技術が同じ市場を争っており、中国の関連企業や実証プロジェクトも加速している。各技術に共通する論理は明快だ。4時間以内のピークシフトはリチウム電池に任せ、数日規模のエネルギー移転には、エネルギー密度ではなく材料コストを核心指標とする全く新しい技術体系が必要とされる。
このレースにおける鉄の強みは「安価かつどこにでもある」ことにある。蓄電時間が数十時間に延びると、1kWhあたりの設備コストがサイクル効率に取って代わり、プロジェクトの経済性を左右する最優先変数となる。
課題:効率・寿命・市場ルール
鉄空気電池に弱点がないわけではない。往復効率が比較的低く、充放電の過程でかなりの割合の電力が損失する。そのため、高頻度サイクルを担うよりも、低電価の時間帯に充電し、高需要の時間帯に放電する用途に向いている。加えて、大規模製造における歩留まり、システムの実際の長期寿命の検証、そして電力系統市場における長時間蓄電の価格設定・補償メカニズムも、商業化実現の重要な変数となっている。
一方で、太陽光・風力の系統浸透率がある閾値を超えると、電力系統と需要家は実際に「信頼性」に対してプレミアムを支払う意志を持つようになる。鉄電池の真の価値は、1kWhあたりのコストの安さではなく、最も必要とされる瞬間に電力を届けられることにあるのかもしれない。
結語
4時間から100時間へ――蓄電産業の競争軸が再定義されつつある。Form Energyは最もありふれた金属である鉄を使い、ひとつの素朴な判断に賭けている。未来の電力系統が競うのは発電コストだけでなく、時間的な柔軟性でもある、という判断だ。この技術路線が成立するかどうかは、工場の生産能力の立ち上がり速度、公益事業会社の調達意欲、そして規制当局が「長時間の電力供給」に対して合理的な価格シグナルを打ち出すかどうかにかかっている。
本稿はMIT Technology Reviewより編訳
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