CESでの共演からAMD最高科学者就任へ:Fei-Fei Liが登壇してからの9カ月、AMDは何が変わり、これからどうなるのか

2026年1月5日、ラスベガスのCESにて、Lisa SuはAMDの基調講演にFei-Fei Liを招いて共演した。Fei-Fei Liはその場で、World LabsのモデルのいくつかがAMD Instinctアクセラレーター上で動作しており、チームはInstinctハードウェアとROCmソフトウェアスタックを活用してパフォーマンス向上を実現したと述べた。

それから9カ月後、この「共演」は82億ドルの全株式交換による買収へと発展し、Fei-Fei LiはAMD最高科学者に就任した。この9カ月の間に、AMDは「AIチップの追随者」から時価総額1兆ドル超の企業へと変貌を遂げた。本稿では二つの問いに答える。この期間にAMDは実際に何が変わったのか?そして今後のトレンドはどうなるのか?

9カ月のタイムライン

時期出来事
2025年10月(背景)OpenAIが少なくとも6GW分のAMDアクセラレーター算力を使用すると発表。第1弾として1GW分のMI450を2026年下半期に導入。当時の発表によると、OpenAIは最大1億6000万株に達するAMDの新株予約権も取得しており、導入マイルストーンと連動している
2026年1月5日CES基調講演:Lisa SuがHeliosラックを世界初公開し「世界最高のAIラック」と称し、「Yottaflops」算力構想を提示。Fei-Fei Liが共演
2026年2月World Labsが約10億ドルの資金調達を完了。評価額は約50億ドルと報じられ、AMDとNVIDIAがともに投資家リストに名を連ねる
2026年7月22日Advancing AI 2026:Helios(MI455X+TSMCの2nmプロセスによるZen 6 EPYC Venice+Pensandoネットワーク+ROCm)が正式発表。1ラックあたり500〜550万ドルと報じられ、2026年第3四半期より出荷開始。MI500までの完全なロードマップを公表。AnthropicとはMI450最大2GW導入の協定を締結し、第1弾1GWは2027年第1四半期に、AMDは同時に約50億ドルの段階的な投資を約束したとも報じられた
2026年8月4〜6日第2四半期決算発表。トロントに拠点を置く推論チップ企業Taalasの買収を発表
2026年9月MLPerf Inference 6.1において、MI355XがBlackwell Ultraを上回り動画生成部門でトップに。AMDの時価総額が初めて1兆ドルを突破し、株価は639ドルの史上最高値を記録
2026年9月26〜28日World Labs買収の合意・発表

この9カ月でAMDは実際に何が変わったのか

1. データセンターが「副業」から「主軸」へ。第2四半期のAMD売上高は115億4000万ドル、前年同期比50%増、非GAAPベースの粗利率は56%。データセンター売上高は67億ドルで前年同期比107%増、総売上高の58%を占めた。第3四半期のガイダンスは約130億ドル(±3億ドル)で前年同期比約41%増。Lisa Suは、売上高の成長率は「以前の35%超という目標を大幅に上回る」見込みであり、1株当たり利益も「以前の20ドルという目標を大幅に超える」見通しだと述べた。

2. チップを売るからラックを売るへ。HeliosはGPU、CPU、ネットワーク、ソフトウェアを一体化したラック丸ごとのシステムであり、単価は数百万ドルに達する。これはAMDの競合相手が「別のチップ」から「NVIDIAの統合システム全体」へと変わったことを意味し、AMDの収益構造・粗利構造・デリバリー能力がすべて書き換えられることを意味する。

3. 顧客リストの質的転換。OpenAI、Anthropic、Microsoft、Meta、OracleはすでにHeliosまたはMI450の導入リストに名を連ねている。1年前、AMDは大規模AIモデルの研究機関においてあくまで「代替案」に過ぎなかったが、今では複数年契約に組み込まれたインフラサプライヤーとなっている。

4. ソフトウェアとエコシステムへの投資を強化。AMDとAnthropicの協力にはROCmの共同最適化が含まれると報じられている。MLPerfではソフトウェアだけで単世代あたり70%のパフォーマンス向上をもたらしており、ROCmの追い上げ曲線が急になっていることを示している。

5. M&Aのペースが加速。Taalas(推論)に続くWorld Labs(モデル研究)の買収により、AMDは推論ハードウェアを補強しながら上流の「モデル側」へも触手を伸ばしている。

今後の五つのトレンド

トレンド1:モデル研究がチップ設計のフィードバックループに組み込まれる。Fei-Fei LiがLisa Suに直接報告する体制は明確な組織的シグナルだ。AMDは「次世代モデルが何を必要とするか」をハードウェアロードマップへのインプットにしようとしており、事後的な対応ではなくなる。ワールドモデルの持続的なシーン状態はメモリ帯域幅を本来的に多く消費するため、MI500以降の製品世代ではHBM容量とインターコネクトがこうした負荷により明確に傾いていくと見られる(これはあくまで推測であり、AMDの公式見解ではない)。

トレンド2:「テキスト」から「物理世界」へ。AMDの公式表明によると、AIハードウェア・ソフトウェア・システムを「推論、ロボティクス、シミュレーション、フィジカルAI」向けに設計していく方針だ。AMDはXilinx買収によって得た組み込み・アダプティブコンピューティング製品ラインを持っており、これはロボティクスやエッジ領域で自然な強みを持つ——製品ラインの分析に基づく判断であり、具体的な製品ロードマップはまだ発表されていない。

トレンド3:「オープン」が差別化の売りになる。「エンドツーエンドのオープンAIエコシステム」をROCm、オープンモデル、プラットフォームの三層で実現する方向性だ。NVIDIAのCUDAはクローズドソースながら極めて成熟した堀を持っており、AMDはオープン+低コストという差別化路線を取るしかない。

トレンド4:顧客集中と「投資で受注を取る」リスクが同時に上昇。OpenAIへの新株予約権の付与、Anthropicへの約50億ドルの投資約束は、本質的にAMD自身の資本を使って大口顧客の受注をてこ入れするものだ。受注が大きくなり、関係が深まるほど、AMDは少数のAIラボへの依存を高めることになる。これらの顧客の資金調達ペースが鈍化すれば、サプライチェーンと在庫への圧力も連動して高まる。これは現在のAIインフラ業界で最も警戒すべき循環構造であり、AMDだけの問題ではないが、AMDは今まさにその渦中にいる。

トレンド5:NVIDIAとの競争は「タイミングの戦い」へ。NVIDIAのVera Rubinはすでに量産フル稼働に入っており、データセンター単季売上高は約890億ドルとAMDの10倍以上だ。AMDの勝機は、Heliosが予定通りに量産出荷できるか、MI455Xが実際の顧客クラスターで性能を発揮できるか、そしてROCmがより多くのワークロードで「すぐに使える」状態になれるかにかかっている。

今後注目すべきマイルストーン

  1. 2026年末まで:World Labs買収の完了、具体的な株数・ロックアップ期間・リテンション条件の開示。
  2. 2026年下半期:Heliosの出荷立ち上がり状況、OpenAIの第1弾1GW MI450導入の進捗。
  3. 2026年第3四半期決算:約130億ドルのガイダンスと粗利率56%を達成できるか、データセンター比率がさらに上昇するか。
  4. 2027年第1四半期:Anthropicの第1弾1GW導入。
  5. 次回のMLPerf:動画生成部門でのリードを守れるか。
  6. World Labsチームの安定性:中核研究者(Justin Johnson、Ben Mildenhallなど)が引き続き留任するか。

総括

この9カ月でAMDは三つのことを成し遂げた。AIロードマップ(Helios、MI450/MI500)を実際に納品可能な製品へと昇華させ、大口顧客(OpenAI、Anthropic)を複数年契約で囲い込み、「モデル研究」を社内に取り込んだ。CESでの一度の共演から買収合意書の締結へ——これは場当たり的なものではなく、AMDが「ハードウェア―ソフトウェア―モデル」の三層に同時に賭けていることを示している。リスクも同様に明確だ。株価はすでに史上最高値圏にあり、少数顧客への依存が深まっており、買収したチームの実際の貢献は数年後にならないと検証できない。AMDの目下の課題は、さらに大きなストーリーを語ることではなく、Heliosを予定通りに出荷することだ。

本稿は公開報道および企業開示資料に基づいてまとめたものであり、投資助言を構成するものではありません。

参考資料